507: 名無しさん@おーぷん 22/02/07(月)20:00:03 ID:LN.8d.L1
理不尽というか、彼女は何も悪くない冷め話なんだが。

社会人になったばかりの頃に付き合ってた彼女は、人前で物が食べられない人だった。
なんでも、
「顎関節症で変な噛み方だから、人には見せられない」
ってことだった。




だから、付き合い始めてしばらくは一緒に食事したことがなかった。
だいたいは、お茶するぐらい。
彼女はアイスやプリンみたいなのばかり食べていたと思う。
俺が食べるのを、お茶飲みながらにこにこ笑って見てるだけ、とかもあった。
だから、いいレストランとかには行ったことなかったな。

初めて一緒に食事したのは出先のファミレスだったけど、すごく不思議な食べ方だった。
(なんか喋りながらパスタをフォークでいじってるな)
と思ったら、
いつのまにか減っている。
そのうちに、いつ食べたのか気がつかないまま、皿が空になっていた。

それから何度か一緒に飯を食う機会はあったけど、毎回いつもそうだった。
麺類かカレーみたいなのしか頼まなくて、こっちの注意がそれた瞬間にサッと口に入れて一瞬で飲み込んでしまう感じ。
それも、注意してないと気がつかないぐらいの早技で。

何度も見ているうちに、それがだんだん薄気味悪くなってきてしまった。
なんか、妖怪じみているというか。
彼女なりの、どうしても食べなきゃいけない時の為の苦肉の策だったのかもしれないけど、一度引っかかってしまうとダメだった。
(こんなふうにしか食べられない人とは、長く付き合い続けるのは無理だ)
となってしまって、だんだん冷めてしまった。
そんな雰囲気が彼女にも伝わったのか、関係がギクシャクし始めて、そのうちに別れた。

行儀が悪いとかクチャラーだとか、そういうのは全くなくて、別に不快な要素は何もなかったので、彼女は悪くないのに、何か後ろめたい気持ちになったのを覚えている。



ザ・バニシング-消失-
ザ・バニシング-消失-