126: 名無しさん@おーぷん 2018/03/02(金)00:22:40 ID:7ur
中学生のある日。
きっかけとかも何もなく、今の母親の前に違う母親がいたという記憶が蘇った。
それまで疑問に思ったことなかったけど、アルバムを確認したら3歳頃まで母親と一緒に写ってる写真が無かった。
何ヵ所か写真が貼れそうな隙間があったから、多分前の母親が写ってる写真を剥がしたんだと思う。
そういう話は一度もしたことがなくて、
(多分無かったことになっているんだ)
と思って両親には何も聞けなかった。

夏休みになって、父親にも今の母親にも黙ってこっそり産みの母親に会いに行くことにした。
朝から友達の家に行くふりをして家を出た。
電車で片道4時間かかる、小学生になる前に住んでた土地まで行った。
詳しい住所までは知らなかったけど、地区名が入ってた公園とか記憶の中の風景を頼りにして何とか『お母さんのお祖母ちゃん家』を探し出せた。
家の外観はうっすら記憶にあって、間違いないと思って呼び鈴を鳴らした。




顔は全然記憶になかったけど、お祖母ちゃんが出てきて、名乗ったら凄く驚いてた。
そして奥から産みの母親を呼んできた。
泣きながら抱き締めてくれた。
産みの母親の顔はうっすら覚えてて記憶の中の前の母親と一致した。
私が訪ねてきた理由も近況とかも何も聞かれなくて、嬉しそうに
「大きくなったね」
って何度も言われた。
つけっぱなしのテレビを見ながら三人でたわいもない話をして、お茶を飲んでお菓子を食べただけだった。
本当にそれだけで何にもなかった。
多分1時間もしないで帰ったと思う。

玄関を出てから産みの母親が追いかけてきて人形を渡された。
「○○(私)だと思ってずっと手元に置いていたけど、あなたに会えたからもう必要なくなった。
だからこの人形はこれからはあなたに持っていて欲しい」

と言われた。
名前はわからないけど、多分今で言うぽぽちゃんとかメルちゃんみたいな人形だと思う。
正直いらないと思ったけど断れなくて受け取ってしまった。

帰りの電車で
(これどうしよう)
ってずっと考えてた。
薄汚れて気味が悪かったのもあるし、両親に説明できないような物を家に持って帰れないと思った。
それでも、服が手作りっぽくて髪の毛も三つ編みにしてあって手編みのポシェットみたいなのを肩から掛けてて、
(産みの母親なりに大事にしてたのか)
と思ったら、気持ち悪いと思うこと自体申し訳ないと思った。

走る電車の中で席に座ってしばらく人形を両手に持ったまま眺めながら、何となく
(パンツとか履いてるのかな)
って思って服の下を見た。
人形はパンツは履いてなくて、お腹と股の辺りがズタズタに傷ついてた。
それを見た瞬間寒気がして、人形を持ってるのが怖くなって、途中の駅で電車が止まったときに降りて駅のゴミ箱に捨てた。
捨てるのも怖くて、心の中で人形に何度も何度も謝りながら捨てた。
電車の中でもずっと心の中で謝り続けてた。


20年以上経つけど、このことは両親には何一つ言ってないし一生言うことはないと思う。
産みの母親にもあれから一度も会ってない。



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